2012年6月20日水曜日

患者のことばかり考えていたら、心理療法家のほうがまいってしまう

心理療法というのは、本気でやったら、とてもしんどいものです。患者のことばかり考えていたら、心理療法家のほうが死んでしまいかねないほどです。

私自身、五十歳ころのことですが、疲労で自分のほうが死んでしまうのではないかと、本気で危機感を抱いた時期がありました。

クライエントには死にたいと思っていたり、「死ぬ」と言ったりしている人が多いから、そういう人たちを相手に本気でやっている心理療法家なら、誰でもこういう経験はあると思います。

クライエントにしてみれば、自分が死にかけているのに、心理療法家にいい加減な気持ちでいられたのでは、たまったものではありません。彼らのそういうことに対する察知能力はすごいものがあります。

そこで、下手をするとクライエントを死なせてしまうことにもなりかねませんから、こちらとしても、ふわふわした気分でいるわけにはいかず、心理療法の現場が生きるか死ぬかの壮絶な闘いの場になっていきます。

外国の心理療法家が1ヵ月くらいのバケーションをとったりするのも、限界ぎりぎりまで巻ききったゼンマイをもとに戻すには、どうしてもそのくらいの期間が必要だからです。アメリカの医者の中でもっとも自殺者が多いのは精神科医だそうです。

これは先の「治療者の限界」とも関連しますが、私の場合、そうした危機状態からどのように抜けだしたかというと、そうしているうちに、自分がやっているわけではなく、治っていくのはクライエント自身の力なのだということがだんだんとわかってきたことが大きかったようです。

自分で必死になって治してあげようと思っているから、よけいに治らず、消耗するわけです。そういうことがわかったときに、自然と危機感も消えていきました。