2012年6月20日水曜日

相手に会うのがいやだと眠くなることがあります

そこで、相手からそういうことを言われる前に、こちらから、「じつは昨夜、ほとんど寝ていなくて、どうも体調が悪いんだ」などと言うこともあります。もちろん、こちらから自分の、いわば弱みを言えるようになるまでには、かなり時間がかかります。

それによって相手に納得してもらえるような言い方ができるようになったのは、それこそ五十歳近くになってからです。

三十歳そこそこぐらいの若い人が言っても、なかなか相手は納得してくれないでしょう。だから、いつでもできる限り体調をととのえて、いい調子で会うこと、それをずっと考えていなければならないでしょう。

まだ私がずっと若かったころ、こんなことがありました。そのクライエントとは非常にうまくいっているし、私の体調もいいのに、その人と話していると、すごく眠くなってきたのです。

おかしいなと思っていろいろ考えますが、睡眠不足でもないし、食事もちゃんととってきたし、眠くなる理由がわかりません。

相手に会うのがいやだと眠くなることがありますが、自分ではうまくいっていると思っていますから、それでもない。いくらしやんとしようと思っても、話を聴いていると、ブーツと眠くなってくる。

そこで私は、これはきっと、彼は私に聴かれたくないことを言わずにいるに違いないと考えました。このへんまではなんとか理論でいきますが、そこから先は直感です。ふいに勘がはたらいて、「あなた、今日でやめるつもりじやないですか」と言ったところ、相手はびっくりして、「えっ、どうしてわかりましたか」。

若いときというのは、うまくいってるときには、相手が苦しいということがなかなかわかりません。治療者がうまくいっていると思っているときというのは、相手はいろいろと反省したり、深く考えたり、苦しんだり、自分を責めたりしているということです。

そこで、こちらがうまいこといったと思って喜んでいると、相手の苦しみとはだんだん乖離していきます。この状態がある程度まで進むと、相手は面接に来る気をなくしてしまいます。ちょうど、そういう状態だったのです。

クライエントが自分を変えていくということは、苦しんでいることにほかなりません。その苦しみをこちらがしっかりとわからなければならないのですが、初心者のころは、それがよくわからない。こっちはうまくいってると思っているのに、相手は苦しんでいる。そういう乖離が起こって、相手はやめようと思っていたわけです。