2015年4月2日木曜日

グローバリゼーションの奇妙な相互作用

欧米諸国が日本の「悪い記憶」に追従するかどうかは、心理状態とグローバリゼーションの奇妙な相互作用に依存すると考えられる。一九九〇年代後期の日本では、企業経営者や消費者だけでなく、政策立案者にもデフレの心理が定着した。すなわち、企業はデフレによって、借金の利息の支払いや、元金の返済が困難になることを恐れ、負債を懸命に削減し続けた。また消費者は、いったん物価が下がり出すと支出を先延ばしし、やがて彼らの賃金低下が始まると、支出を削減せざるをえなくなった。さらに政府の政策立案者は、賃金低下を奨励していた。彼らは気づいていないかもしれないが、労働法を改正することによって、正規労働者に比べて賃金が低く、社会保障等の少ないパートタイマーや非正規労働者を、広く雇用することを許容したのである。

政策立案者がこれを実施しだのは、労働コストを引き下げることによって、企業を援助すれば、企業競争力を増強できると信じたからである。しかしその結果、世帯収入の減少をもたらし、内需が継続的に減退した。日本にとって救いとなったのは、グローバリゼーションであり、海外、とくに中国からの強い需要を利用して、輸出力を増強できたことである。このような相互作用は、今後の欧米諸国にとって、再びきわめて重大になるだろう。次の理由から、心理状態はとくに重要なのである。多くの人は、エコノミストが経済危機を予測できなかったことを批判している。この批判の一部が妥当でないのは、実際に多くのエコノミストが、危機が起こることを予測していたからだ。

その反面、妥当だといえるのは、経済危機の深刻さの程度と範囲を予測することは、現在の景気回復の力強さと本質を予測しにくいのと同様に、困難だったことである。困難だというのは、経済学が科学ではなく、その考えや調査結果を数字的方程式に集約できないからである。つまり、その根底は人間行動の考察にあるからだ。大きな衝撃が起こると、人間の行動は基本的に予想すらできない方向に変化するものである。すなわち、信頼は消え失せ、警戒が自信に取って代わる。信頼の消失は、信用市場がこのように停滞してしまった理由になると思う。また、人々がより警戒していることは、リーマンーブラザーズが崩壊してから、消費者と企業が、商品、たとえば新車やテレビ、それにコンピューターやその他の機器などの購入を取り止めて、その消費が突然落ち込んだことを見てもよく分かるだろう。このような反応の激しさと、信頼や信用の程度は、前もって予測できないのである。