2014年6月2日月曜日

金日成主席の死去

金日成主席の死去より数年早い時点から深刻化したらしい北朝鮮の食糧事情に関しても、飢餓寸前だという情報がここ数年にわたって伝えられ、それにしては北朝鮮の国内で大量の餓死者が出ているという、推測はあっても確たる情報もなく、国連や米国、韓国などが行っている食糧援助も、それを必要としている一般国民にちゃんとわたっているという話もあれば、援助食糧は全て軍の戦時備蓄に回されているという情報もあり、実状は定かではない。

時折、国連や外国政府関係者、外国メディアが北朝鮮の国内に入る機会はあっても、彼らが見聞できるのは、ごく一部の場所、人、施設などで、その情報はきわめて断片的である。つまるところ、北朝鮮国内の実状に関しては、膨大な数のジグソーパズルのほんの少しのヒースを、あちこちにばらばらに置いている状態にすぎず、それで全体を把握するのはとうてい無理という状況にある。

このような、内情がよく分からない場合、その国が対外的に何をやってきたかという実績から、今後の進む方向を推測する方法が採られるが、北朝鮮の過去の外交実績は、常識では計り知れない部分が非常に多い。一九八三年のビルマ(現ミャンマー)における、韓国全斗煥大統領一行の爆殺計画(東南アジアで唯一の親北朝鮮国であったビルマを敵に回してしまった)や、一九八七年の大韓航空機爆破事件(これでソウ万オリンピックが中止に追い込めると考えたらしい)、そして一九九六年九月の小型潜水艦による偵察員上陸事件(潜水艦が座礁して発覚したが、その潜水艦は北朝鮮の羅津・先鋒自由経済貿易地帯への外国投資を促す国際会議を開催している最中に出撃している)などは、いずれも北朝鮮はその関与を否定したり、単なる事故であると主張するものの、このような行動を実行する理由が理解に苦しむ。要するに、北朝鮮は何をするか分からない、と考えざるを得ない。

これは、安全保障にとって最も好ましくない状況である。情報が無いうえに、相手の行動の常識的予測ができないとなると、周辺諸国は常に最悪の状態を想定して備えておかねばならない。その警戒が杞憂であろうがなかろうが、警戒されている当の国から見れば、周辺諸国が戦闘態勢を整えていると映り、その国も警戒して、いっそう軍備を増強し、戦闘準備を整えるという悪循環に陥りかねない。

こうなると「卵が先か鶏が先か」の議論ではあるが、相手の出方、状況が分からない以上、最悪の場合を想定するのは安全保障の見地からは当然である。「だから、相手が警戒しないように、こちらがまず最悪の事態を考えることをやめるべきだ、そして、まずこちらから軍備を解くべきだ」というのは無責任な議論で、それで相手が無理難題を押し付けてこないという保証は何もない。「北風か太陽か」ではなく、最悪の状態に備えながら太陽を当てるようにするというのが、安全保障と外交の役割であろう。