2016年3月2日水曜日

脱冷戦のニューリーダー

ガリ氏は一九二二年にカイロで生まれた。父親は裕福な地主で祖父が首相、叔父が外相を務めた名門一家である。カイロ大法学部を卒業した後、パリ大で博士号を取り、両方の大学で教鞭を取った。本来は学者だったが、七七年にサダト大統領が外交担当の国務相に抜擢したことから政治家の道に入り、中東和平のキャンプーデービッド合意にも深くかかわった。

その後、十四年にわたってエジプト外交の中枢に位置し、九一年から外務担当副首相の座にあった。趣味は読書、卓球、音楽。本人はキリスト教コプト教徒で、レイアーマリア夫人はユダヤ系のエジプト人。国連内では、「エジプト副首相とは言え、権力の傍流にいた人物。性格は果断だが、主流の意見を聞く耳を持たない」という批判がある一方、「P5にも歯に衣着せぬ直言をする冷戦後の指導者」という高い評価もある。

積極的にイニシアチブを取るガリ氏の性格にもよるが、同時に、冷戦構造のしがらみの中で調整型の資質が求められたデクエヤル前総長とは違って、脱冷戦の不透明な時代が要請した新しいリーダーという側面があったことも見逃せないだろう。

六代事務総長になったガリ氏の性格を物語る逸話として、こんな話が伝えられている。選挙の前に主要国は、ガリ氏を推す条件として、あまりに硬直化した事務局を大幅に組織改革するよう迫った。幹部ポストを削減し、大国が自動的に要職を占める慣行を改めるようにとの要望だ。オーストラリアやメキシコ、インド、オランダ、アフリカなどの代表は二度、ガリ氏を訪問し、その簡素化の約束を取り付けた。