2012年7月11日水曜日

父性への期待や要求が高まる

父性への期待や要求が高まる中で、父親や教師が父性に欠けているため、私たちのようなカウンセラーが、よけいにそういうことをしなければならなくなってきたとも言えます。

つまり、世の中の人が避けていることを、カウンセラーがやらされているわけです。だから私は、クライエントにもよく怒ります。「このことができない限り、ここには来るな。私はそんな甘っちょろいやつに会うために生きてるんじやない」などと、はっきり言います。

カウンセラーは、父性をもってなければ、むずかしいクライエントには対処できません。これは、男と女に関係なく言えることです。

日本はもともと母性的な社会ですから、母性は特別に訓練しなくても身についています。ところが、キリスト教文化圏の西洋の人たちは、なかなか母性が身につかない。

ユングは母性的な面も重視した人ですが、その点、日本人のカウンセラーたちは、相手をやさしく包みこむような母性を自然に発揮できるので、彼らはそれにびっくりします。

父性を発揮するときも、母性的な受容と同様、真似するだけでは逆効果です。カウンセリングでは母性を基盤にしつつも、どこかの段階でズバリと父性を出さなければならないときがあります。

ところが、期待はしつつも、父性に慣れていないことではクライエントも同じですから、よほどよく考えてやらないと失敗します。

2012年6月20日水曜日

患者のことばかり考えていたら、心理療法家のほうがまいってしまう

心理療法というのは、本気でやったら、とてもしんどいものです。患者のことばかり考えていたら、心理療法家のほうが死んでしまいかねないほどです。

私自身、五十歳ころのことですが、疲労で自分のほうが死んでしまうのではないかと、本気で危機感を抱いた時期がありました。

クライエントには死にたいと思っていたり、「死ぬ」と言ったりしている人が多いから、そういう人たちを相手に本気でやっている心理療法家なら、誰でもこういう経験はあると思います。

クライエントにしてみれば、自分が死にかけているのに、心理療法家にいい加減な気持ちでいられたのでは、たまったものではありません。彼らのそういうことに対する察知能力はすごいものがあります。

そこで、下手をするとクライエントを死なせてしまうことにもなりかねませんから、こちらとしても、ふわふわした気分でいるわけにはいかず、心理療法の現場が生きるか死ぬかの壮絶な闘いの場になっていきます。

外国の心理療法家が1ヵ月くらいのバケーションをとったりするのも、限界ぎりぎりまで巻ききったゼンマイをもとに戻すには、どうしてもそのくらいの期間が必要だからです。アメリカの医者の中でもっとも自殺者が多いのは精神科医だそうです。

これは先の「治療者の限界」とも関連しますが、私の場合、そうした危機状態からどのように抜けだしたかというと、そうしているうちに、自分がやっているわけではなく、治っていくのはクライエント自身の力なのだということがだんだんとわかってきたことが大きかったようです。

自分で必死になって治してあげようと思っているから、よけいに治らず、消耗するわけです。そういうことがわかったときに、自然と危機感も消えていきました。

苦しみの処方畿

「私は精神科医としても、神経症、うつ病、精神分裂病の治療で薬物療法を行いますが、積極的に夢を使っての心理療法(夢分析)と同時に行います。

一般に薬物(抗精神病薬、抗不安薬、抗うつ薬)は夢に影響を与えると聞きますが、実際上、薬物療法を併用しての夢分析への治療上の悪影響というものは考えられますか」

薬物療法についての角野さんの質問ですが、私は精神科医ではないので、はっきりしたことを言う資格はありませんが、この問題は、ユング派の中でもよく取りあげられてきた問題です。

大きく分けて、できるだけ薬を使わない方法でやっている人と、患者が苦しんでいるのだから、ある程度は薬を使いながら心理療法をやっていこうという二派がありますが、私にはどちらがどうという判定はできません。自分がどうしたらいいかということは、自らの体験の中から自分自身でつかみ取っていくしかないでしょう。

薬を飲むと、ある意味では楽にはなりますが、苦しむからこそ治るというところもあって、そこのむずかしさがあります。患者が苦しむときには、治療者も苦しいわけで、医師や看護婦の苦しみを防ぐために、患者に薬を飲んでもらう場合もあります。

たとえば、放っておいたら暴れてどうしようもない患者さんなら、やはり安定剤などで抑えることも必要になるでしょう。

私が訓練を受けていた当時、ユング研究所のリックリン所長は、「自分の体のもつ限り、薬は使わない」と言っていましたが、こちらも苦しくてたまらないから使ったほうがいいという考え方の人と、両方があります。

心理療法の本来的なかたちからは使わないほうがいいというのは、理想論であって、現実の問題とはまた別です。したがって、現実問題をどう読んでいくかが大きな課題となるでしょう。

同じ使うにしても、種類とか量についてもしっかり考えていかなければなりません。私は医師ではありませんから、そういう点は、むしろ角野さんに期待したいところです。